朗読作品

銭形平次捕物控 八五郎売り出す

野村胡堂 →
若き日の八五郎が、恋に敗れながら生涯の親分・銭形平次を得る。名コンビ誕生を描く『銭形平次捕物控』の人気長編。
若き日の八五郎と銭形平次。名コンビ誕生を告げる表紙カード。

あらすじ

名コンビとして知られる銭形平次とガラッ八――その出会いには、若き日の恋と一つの大事件があった。二十五歳の八五郎は七里ヶ浜でお町に出会い、やがて本銀町の大店・鹿島屋をめぐる花嫁失踪、三百両、殺しの疑いへ巻き込まれる。お町の無実を信じた八五郎は、二十六歳の若き銭形平次を頼る。先輩御用聞・般若の六との意地、替え玉見合い、複雑な人間関係、そして新たな犠牲。事件を追う中で八五郎は恋に敗れながらも、生涯の親分となる平次と結ばれていく。

登場人物

  • 八五郎(ガラッ八) — 二十五歳。向柳原育ち。気がよく威勢がよく、少々呑気な青年。七里ヶ浜でお町と出会い、事件へ飛び込む。本作は、のちに平次の名相棒となる彼の“始まりの物語”。
  • 銭形平次 — 二十六歳の若き御用聞。冷静な観察力と人情を備える。お町の無実を信じ、般若の六の縄張りへ踏み込む覚悟を決める。
  • お町 — 鹿島屋へ嫁いだ若い娘。祝言の夜に逃げ出し、泥棒と殺しの疑いを受ける。七里ヶ浜で八五郎と出会う。
  • お静 — 両国の水茶屋・若葉屋の茶汲み娘。平次と互いに好意を寄せ合う。お町の友人として事件解明にも力を貸す。
  • 般若の六 — 顔の古い先輩御用聞。鹿島屋の事件を担当し、若い平次とは強い対抗意識を持つ。
  • お鉄 — かつて鹿島屋に奉公していた女。お町の嫁入りの付添いを務め、事件の核心につながる秘密を抱える。
  • 進之助 — お冬の連れ子で敬太郎の義弟。お町が見合いで『鹿島屋の若旦那』と思っていた人物として替え玉の謎の中心に浮かぶ。
  • 敬太郎 — 鹿島屋の若旦那。お町との祝言の夜、事件の犠牲となる。
  • お冬 — 鹿島屋の内儀。敬太郎とは継母子、進之助の実母。店と家族の複雑な事情を抱える。
  • 吉三郎 — 鹿島屋の甥。小柄で気が利く人物。お鉄との過去も事件の周辺に影を落とす。
  • 与八 — 鹿島屋の手代。押しが強く、お鉄と噂になったこともある。
  • 宗助 — 鹿島屋の一番番頭。店内の事情を知る立場。
  • 熊脂のお国 — お町の養い親。横町で金貸しをする気の強い女。鹿島屋との縁談を金銭面から推し進める。

用語集

  • 七里ヶ浜(しちりがはま) — 鎌倉と江の島の間に続く海岸。本作では八五郎とお町が出会う重要な舞台。
  • 東慶寺(とうけいじ) — 鎌倉・松ヶ岡の尼寺。江戸時代には縁切寺として知られる。
  • 御用聞/岡っ引 — 町奉行所の同心などに協力して探索・捕縛を行った町方の協力者。
  • 十手(じって) — 捕方が携える鉄製の道具。役目の象徴としても描かれる。
  • 髷(まげ) — 江戸時代の男性の髪型。平次は事件解決を賭け、自らの髷を切る覚悟まで示す。
  • 乾分(こぶん) — 親分に従う子分。本作は八五郎が平次の乾分となるまでを描く。
  • 三々九度(さんさんくど) — 婚礼の盃事。お町はこの祝言の場で異変に気づく。
  • 扱帯(しごきおび) — 女性の帯まわりに用いる細長い布。事件の重要な手掛かり。
  • 金蔵(かねぐら) — 商家などで金銭や貴重品を保管する蔵。事件後半の重要な舞台。
  • 火屋(ひや) — 石燈籠で灯火を置く部分。作中では隠された金をめぐる手掛かりとなる。

物語を巡る

— 文章で読み解き、九枚の縦型ストーリーカードで『八五郎売り出す』を俯瞰する —

若き八五郎の魅力

本作の八五郎は、まだ『ガラッ八』として完成していない。気がよく、惚れっぽく、勢いで危地へ飛び込み、それでも人を見捨てられない。その未完成さこそが、のちの名相棒へつながる最大の魅力です。

平次もまた“若き日の平次”

二十六歳の平次は、後年の名探偵として完成する前の姿。般若の六との意地の張り合いもあり、危うさもある。しかし、人の命を金や手柄より重く見る倫理観はすでに揺るぎません。

祝言の謎――替え玉という残酷さ

お町が逃げた理由は単なる気まぐれではありません。『見合いで会った男と、祝言の婿が違う』という欺瞞が、事件の中心にあります。恋愛、家の都合、金、体面が絡み合う、野村胡堂らしい人間喜劇と陰影です。

女性たちが事件を動かす

お町、お静、お鉄、お冬。事件を動かすのは男性の捕物だけではありません。逃げる者、助ける者、秘密を抱える者、家を守ろうとする者。それぞれの選択が事件の形を変えていきます。

失恋が“名コンビ誕生”へ変わる

八五郎はお町を得られない。しかし、その失恋の先で平次という親分を得る。恋の結末を友情と仕事の始まりへ転換する終幕こそ、本作が単なる捕物ではなく『二人の始まりの物語』として愛される理由です。

物語を聴く

— 声で『八五郎売り出す』を辿る —

唄本を聴く

— 平次と八五郎の物語に寄り添う主題歌 —

物語を辿る

— 本編朗読のために制作した場面画像とともに、事件と二人の始まりを物語順に追う —

1. 七里ヶ浜――八五郎とお町の出会い

鎌倉帰りの八五郎は、七里ヶ浜でお町と出会う。何気ない道連れが、平次との運命まで変えていく。
七里ヶ浜――八五郎とお町の出会い

鎌倉帰りの八五郎は、七里ヶ浜でお町と出会う。何気ない道連れが、平次との運命まで変えていく。

2. 荒波の中の救出

追手と波に翻弄されるお町を、八五郎は夢中で助ける。彼の人の好さと男気が最初に強く表れる場面。
荒波の中の救出

追手と波に翻弄されるお町を、八五郎は夢中で助ける。彼の人の好さと男気が最初に強く表れる場面。

3. 鹿島屋をめぐる騒ぎ

江戸へ戻った八五郎は、花嫁失踪と三百両、婿の死が絡む鹿島屋の怪事件へ巻き込まれる。
鹿島屋をめぐる騒ぎ

江戸へ戻った八五郎は、花嫁失踪と三百両、婿の死が絡む鹿島屋の怪事件へ巻き込まれる。

4. 八五郎、つかまる

お町を逃がそうとする騒ぎの中で八五郎は取り押さえられ、鹿島屋の納戸へ押し込められる。
八五郎、つかまる

お町を逃がそうとする騒ぎの中で八五郎は取り押さえられ、鹿島屋の納戸へ押し込められる。

5. 平次と八五郎、格子越しの初対面

平次は納戸の八五郎に声をかける。お町の無事を知った八五郎は、荒れた態度を一変させる。
平次と八五郎、格子越しの初対面

平次は納戸の八五郎に声をかける。お町の無事を知った八五郎は、荒れた態度を一変させる。

6. お鉄、八五郎を逃がそうとする

お鉄は八五郎に金を渡し、江戸を離れるよう持ちかける。平次はその不自然な動きを見逃さない。
お鉄、八五郎を逃がそうとする

お鉄は八五郎に金を渡し、江戸を離れるよう持ちかける。平次はその不自然な動きを見逃さない。

7. 石燈籠を見張る平次

平次と般若の六は、夜の鹿島屋の庭で息を潜める。石燈籠の周囲に、三百両の秘密が集約していく。
石燈籠を見張る平次

平次と般若の六は、夜の鹿島屋の庭で息を潜める。石燈籠の周囲に、三百両の秘密が集約していく。

8. 第二の犠牲

闇の庭で事件が起こり、お鉄は口を封じられる。平次は倒れ方と髪の乱れから、襲われた向きを読み取る。
第二の犠牲

闇の庭で事件が起こり、お鉄は口を封じられる。平次は倒れ方と髪の乱れから、襲われた向きを読み取る。

9. 三百両、姿を現す

石燈籠から金が見つかり、平次は髷を賭けた約束を果たす。しかし、事件そのものはまだ終わらない。
三百両、姿を現す

石燈籠から金が見つかり、平次は髷を賭けた約束を果たす。しかし、事件そのものはまだ終わらない。

10. 『当夜の婿が違っていた』

お町は平次に衝撃の事実を告白する。見合いで会った男と、祝言の席にいた婿は別人だった。
『当夜の婿が違っていた』

お町は平次に衝撃の事実を告白する。見合いで会った男と、祝言の席にいた婿は別人だった。

11. 八五郎の初仕事――進之助を探る

平次の指図を受け、八五郎は進之助の周辺を探る。荒っぽいが機転の利く“御用始め”が動き出す。
八五郎の初仕事――進之助を探る

平次の指図を受け、八五郎は進之助の周辺を探る。荒っぽいが機転の利く“御用始め”が動き出す。

12. 手紙を持って走る八五郎

八五郎は掴んだ手掛かりを平次のもとへ運ぶ。名コンビらしい役割分担が少しずつ形になる。
手紙を持って走る八五郎

八五郎は掴んだ手掛かりを平次のもとへ運ぶ。名コンビらしい役割分担が少しずつ形になる。

13. 下横町の火事

捜査の先で夜の火事が起こる。平次たちは、事件の鍵を握る者を救うため炎の中へ飛び込む。
下横町の火事

捜査の先で夜の火事が起こる。平次たちは、事件の鍵を握る者を救うため炎の中へ飛び込む。

14. 火の中からお静を救う

危険な役目を引き受けたお静も事件に巻き込まれる。平次は彼女を救い出し、真相へさらに近づく。
火の中からお静を救う

危険な役目を引き受けたお静も事件に巻き込まれる。平次は彼女を救い出し、真相へさらに近づく。

15. 再び金蔵へ

平次と八五郎は、暗い金蔵の格子越しに内部を探る。逃げ場のない場所で、犯人の輪郭が明確になる。
再び金蔵へ

平次と八五郎は、暗い金蔵の格子越しに内部を探る。逃げ場のない場所で、犯人の輪郭が明確になる。

16. 金蔵の対決

隠されていた欲と恐れが露わになり、事件は最終局面へ。若い平次の読みと八五郎の行動力が噛み合う。
金蔵の対決

隠されていた欲と恐れが露わになり、事件は最終局面へ。若い平次の読みと八五郎の行動力が噛み合う。

17. 花嫁お町

事件のあと、お町は自分の道を選ぶ。八五郎にとっては、恋の終わりを受け入れなければならない瞬間となる。
花嫁お町

事件のあと、お町は自分の道を選ぶ。八五郎にとっては、恋の終わりを受け入れなければならない瞬間となる。

18. 恋に敗れた八五郎

祝言の灯を遠くに見ながら、八五郎は失恋を知る。傍らには、黙ってその痛みを受け止める平次がいる。
恋に敗れた八五郎

祝言の灯を遠くに見ながら、八五郎は失恋を知る。傍らには、黙ってその痛みを受け止める平次がいる。

19. 親分子分――名コンビ誕生

明神下で盃を交わす二人。八五郎は恋に敗れた代わりに、生涯を共にする親分・銭形平次を得る。
親分子分――名コンビ誕生

明神下で盃を交わす二人。八五郎は恋に敗れた代わりに、生涯を共にする親分・銭形平次を得る。

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