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この作品を、どう辿りますか。
作品紹介
山本周五郎「きんべえ物語」第一話『妹の縁談』は、少し頓狂で可笑しい姉・おしずが、妹おたかの縁談を守るために奔走する人情小説です。笑いの中に家族の重荷があり、軽妙な会話の奥に、姉妹が長く抱えてきた痛みがにじみます。
本ページでは、朗読本編、唄本、物語を巡るビジュアル、登場人物・用語集をまとめて紹介します。
あらすじ
おしずは長唄を教えながら、妹おたかとともに両親を養って暮らしている。ある日、薬研堀の生華の師匠・絹女から、おたかに縁談があると聞かされる。相手は下谷稲荷町の綿問屋・信濃屋の一人息子、友吉。だが姉妹には、兄・栄二の問題という、簡単には口にできない事情があった。
おたかは友吉を好きでありながら、兄のこと、そして姉を置いて自分だけ幸せになることへの遠慮から、縁談を諦めようとする。おしずは妹の本心を知り、相手方へ正直に事情を打ち明け、さらに妹を説得するため、目黒不動へ連れ出す。可笑しさと涙が入り混じる、山本周五郎らしい姉妹の人情譚です。
登場人物
- おしず:三十二歳。しもぶくれの柔らかな顔立ちで、自分では「おたふく」だと思い込んでいる。頓狂な言い間違いで周囲を笑わせるが、妹おたかの幸せのためには恥も外聞も捨てて動く、情の深い女性。
- おたか:二十六歳。神田今川橋の仕立屋へ勤める美しい女性。友吉への思いを抱きながら、兄・栄二の問題と姉を置いて嫁ぐことへの遠慮から、縁談を諦めようとしている。
- 栄二:おしずより三つ違いの兄。かつて禁制の書物を持っていたことで入牢し、その後も家族へ金をせびりに来る。一家の不安のもとであり、縁談に影を落とす存在。
- 伊吉:縫箔職人。腕はあるが、妻を迎えた後に家を出て別世帯を持ち、実家との関わりは薄くなっている。
- 新七:小柄で上品な老人。本来は錺職だが、家計や子供のことは妻に任せきりで、家族の事情を背景から支える存在。
- いく:おしずたちの母。家族の苦労を背負ってきた女性。物語では姉妹の暮らしの重みを示す存在。
- 絹女:利休古流を教える女師匠。陽気で話し好き、おしずと好一対の頓狂さを持つ。おたかの縁談をおしずに伝える。
- 神谷市兵衛:薬研堀で花屋を営む。無口でおとなしい人物。絹女とは対照的な「蚤の夫婦」として描かれる。
- 友吉:下谷稲荷町の綿問屋・信濃屋の一人息子。おたかに執心し、両親もおたかを気に入っている。
- 和吉:信州諏訪の生まれ。口の重い朴訥な人物で、商人らしく見えない落ち着きを持つ。
- てつ:絹女の親類筋にあたる女性。さっぱりした気性で、おしずの正直な告白に涙ぐみ、姉妹の苦労を受け止める。
- 貞二郎:島崎来助の弟子で、腕のよい彫金職人。おしずがひそかに想いを寄せる人物で、三部作後続話へつながる存在。
用語集
- 縁談:結婚の相談や取り決め。本作では、おたかの幸せと一家の問題が交差する中心軸。
- 長唄:三味線音楽の一種。おしずは長唄の師匠として弟子を教えている。
- 手なおし:芸事で、師匠に自分の癖や崩れを直してもらうこと。おしずは毎年八月、神田淡路町へ通う。
- 利休古流:華道の流派名。薬研堀の絹女が教えている。
- 火の見横丁:おしず一家が暮らす日本橋はせがわ町の横丁。火の見櫓は移された後も俗名として残っている。
- 版下彫り:印刷用の版木を彫る職人仕事。宗吉や栄二の経歴に関わる語。
- 縫箔:刺繍や金銀箔で布を装飾する技法。またその職人仕事。長兄・伊吉の職に関わる。
- 人別:江戸時代の戸籍・宗門人別帳に相当する登録。罪や家族への累を避けるため、人別から抜くことが問題となる。
- 江戸お構い:江戸への立ち入りを禁じる処分。栄二は牢を出た後、五年間江戸お構いとなる。
- 柳子新論:山県大弐の著作。幕府政治批判を含む禁制の書物として作中で言及される。
- 山県大弐:江戸時代中期の思想家。作中では禁制の書物「柳子新論」と関連して語られる。
- 目黒不動:江戸近郊の名所。おしずがおたかを誘い、姉妹が縁談について向き合う重要な舞台。
- 目黒の秋刀魚:落語で知られる題材。作中ではおしずのとぼけた言い間違いと、茶店の笑いを生む。
- 釵:女性の髪に用いるかんざし。おしずが貞二郎の彫った品を持ちたいという思いに関わる小道具。
- 帯止:帯締めを飾る装身具。貞二郎への密かな恋心を示す小道具として語られる。
物語を巡る
— 八つの場面から『妹の縁談』の核心へ —
物語を聴く
— 声で『妹の縁談』を辿る —
唄本を聴く
— 物語の余韻を、唄本で味わう —
物語を辿る
薬研堀で聞いた縁談 → はせがわ町の姉妹 → 妹の本音と姉の沈黙 → 信濃屋への告白 → 貞二郎への秘めた思い → 目黒不動の茶店
一 薬研堀で聞いた縁談
八月の手なおし帰り、おしずは薬研堀の生華の師匠・絹女を訪ねる。いつもの頓狂なやり取りの末、絹女は「おたかちゃんの縁談」を切り出す。
二 はせがわ町の姉妹
火の見横丁で両親を養うおしずとおたか。妹の縁談を知ったおしずは、家の事情と兄・栄二の問題を抱えながらも、おたか自身の気持ちを確かめようとする。
三 妹の本音と姉の沈黙
夜、姉妹は縁談について語る。おたかは友吉が好きだと明かしながらも、栄二のことと姉を置いて嫁ぐことへの遠慮から、諦める覚悟を口にする。
四 信濃屋への告白
おしずは妹に内緒で稲荷町の信濃屋を訪ね、友吉の両親に一家の事情を正直に話す。栄二を人別から出す覚悟まで示し、妹を貰ってほしいと願い出る。
五 貞二郎への秘めた思い
おしずは出稽古先で、貞二郎が彫った釵の話に触れられ、密かな恋心を思い出す。自分の思いを利用して、妹を説得する計略を立てる。
六 目黒不動の茶店
おしずはおたかを目黒不動へ誘い、茶店で栗飯と松茸の椀を囲む。自分にも縁談があるように話し、妹の心をほどき、ついにおたかは友吉との幸せへ踏み出す。
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