朗読作品
深川安楽亭
山本周五郎 →
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この作品を、どう辿りますか。
あらすじ
深川の地はずれ、四方を堀に囲まれ、一本の橋だけで町とつながる「島」に安楽亭はある。幾造のもとには、与兵衛、定七ら、世間と折り合えない若者たちがたむろし、抜荷の「荷操り」にも手を染めていた。そこへ毎晩、名も告げない中年の客が現れ、酒を飲んでは泣く。やがて与兵衛が、恋人おきわを救おうとして主人の金を持ち出し、行き場を失った富次郎を拾ってくる。定七たちは、おきわを救う金を作るため危険な仕事を引き受けるが、その代償は重い。最後に富次郎を救うのは、金を憎み続けた名もない客だった。荒んだ者たちのなかに残る愛情と、見返りを求めない善意を描く物語。
登場人物
- 幾造 — 安楽亭の主人。四十七歳。世間と折り合えない若者たちを島の内に置き、自分が押さえることで外へ害を及ぼさないようにしている。
- おみつ — 幾造の娘。安楽亭の仕事を手伝い、負傷した富次郎を手当てし、その事情を聞いて若者たちへつなぐ。
- 与兵衛 — 二十八歳。安楽亭にいる無頼者の一人。富次郎を拾って助け、おきわの居所を突き止める。
- 定七 — 二十六歳。冷酷な行動をためらわない一方、堀に落ちた子雀を救い、母雀が戻るまで守ろうとする。
- 政次 — 安楽亭の無頼者。唇をまくる癖があり、荒っぽく皮肉な物言いをする。
- 由之助 — 安楽亭の無頼者。よく笑い、理屈やたとえ話を好む。
- 源三 — 安楽亭の無頼者。口数が少なく、仲間と行動する。
- 仙吉 — 十九歳。安楽亭の若者の中ではまだ幼さが残り、初めて本格的な荷おろしへ同行する。
- 富次郎 — 二十三歳の店者。質屋・近江屋に奉公し、暖簾分けを目前にしていたが、幼なじみのおきわを救うため店の金を持ち出す。
- おきわ — 富次郎の幼なじみ。母を亡くした後、父の借金のため岡場所へ売られようとする。
- 名もない客 — 四十〜四十五歳ほど。毎晩安楽亭へ来て酒を飲み、泣く男。かつて木場で働き、妻おつじと三人の子供を持っていた。
- 岡島 — 八丁堀の同心。安楽亭を抜荷の拠点と見て捜査し、幾造や定七たちに踏み込む。
- 勝兵衛 — 吉永町の夜番。岡島に安楽亭の「島」を案内する。
- 小平 — 「灘文」の雇人。安楽亭の若者たちへ抜荷の荷おろしを持ちかける。
- 灘屋文五郎 — 「灘文」の主人。岡島が抜荷の荷主として名を挙げる人物。
- おろく — おきわの母。働き者だったが病に倒れ、その後亡くなる。
- 亀吉 — おきわの父。酒好きで怠け者。借金のため娘を女衒へ渡す話を進める。
- 鍾馗の権六 — おきわの身売りに関わる女衒。富次郎が居所を追う手掛かりになる。
用語集
- 安楽亭 — 深川の地はずれ、四方を堀に囲まれた「島」にある一膳飯屋。若者たちのたまり場であり、裏では荷を扱う拠点にもなっている。
- 荷操り — 安楽亭の者たちが夜に行う荷の運搬・受け渡し。作中では抜荷と結びついた危険な仕事として描かれる。
- 抜荷 — 岡島が追っている密かな荷の流通。中川から荷をおろし、安楽亭へ運び込んで隠す仕組みが語られる。
- 灘文 — 小平が雇われている店。岡島は「灘屋文五郎」を抜荷の荷主として疑う。
- 岡場所 — 作中で、おきわが売られる先として語られる場所。富次郎はおきわを探して各所を回る。
- 女衒 — おきわの身売りに関わる者。鍾馗の権六の名が手掛かりになる。
- 戸納質 — 富次郎が暖簾分け後に始めたいと考えている、小さな質商い。
- 目笊 — 定七が助けた子雀を庇の上で守るためにかぶせた笊。
- 呼子笛 — 岡島が援手を呼ぶためとして見せる笛。のちに定七がそれを吹く。
- 袖搦・刺股 — 捕方が使う捕具。第九章で、待伏せに遭った与兵衛が捕方との攻防を語る中に登場する。
物語を巡る
— 八つの場面から『深川安楽亭』を辿る —
物語を辿る
— 十章の流れを追う —
第一章 見知らぬ客

知らない人間は入れない安楽亭へ、名も告げない中年の客が入り込む。男は何度も店へ現れ、酒を飲んでは嗚咽し、「ここを知っている」と繰り返す。
第二章 富次郎

与兵衛が、ひどく打たれて行き場を失った若い店者を安楽亭へ連れてくる。おみつが手当てし、その若者が富次郎と名乗る。
第三章 島を探る岡島

八丁堀の岡島は夜番の勝兵衛とともに、堀に囲まれた安楽亭を外から観察する。水路と荷揚げ場に目をつけ、単身で島へ踏み込む。
第四章 幾造と岡島

幾造は、安楽亭の若者たちが世間と折り合えず、愛情に飢えながら人を信じられない存在だと語る。だが岡島は抜荷の疑いを突きつけ、家捜しを始める。
第五章 定七と子雀

岡島との事件のあと、定七は堀に落ちた子雀を拾う。危険な男が、小さな命を案じて母雀の帰りを待つ一方、富次郎はおみつへ自分の罪を語り始める。
第六章 おきわの事情

富次郎は、幼なじみのおきわが父の借金のため売られると知り、彼女を救うため店の金を持ち出した経緯を明かす。しかし探し回った末、金を使い果たし、おきわも見つけられなかった。
第七章 三十両の決断

与兵衛がおきわの居所を突き止め、身請けには二十両が要るとわかる。安楽亭の男たちは、富次郎のため、手当三十両の危険な荷おろしを引き受ける。
第八章 十三夜の出発

定七、与兵衛、仙吉は月明かりを警戒しながら舟の支度を整える。定七は出発直前まで子雀の世話をおみつに頼み、三人は夜の水路へ向かう。翌朝、子雀は死に、三人も帰らない。
第九章 与兵衛の帰還

荷おろしは捕方の待伏せに遭う。定七は戻らず、仙吉は捕らえられ、与兵衛は重傷を負って帰還する。それでも与兵衛は、富次郎へした約束を気にかける。
第十章 月夜の土堤

名もない客は富次郎を月夜の土堤へ誘い、自分が妻おつじと子供たちを失った過去を語る。金を憎む男は五十両余りを富次郎へ渡し、おきわと離れず暮らすよう約束させる。翌夕、富次郎とおきわは二人で安楽亭を去り、客は二度と戻らない。
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